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高知地方裁判所須崎支部 昭和53年(ワ)19号 判決

原告

頼信博

被告

久野喜八郎

ほか二名

主文

一  原告に対し

1  被告久野喜八郎は金二一四万五四六四円及び内金四五万円に対する昭和五〇年六月二七日以降、内金一四九万五四六四円に対する同年七月一一日以降各完済迄年五分の割合による金員を

2  被告室地克博は金二三三万九四六四円及び内金二一一万九四六四円に対する昭和五〇年八月六日以降完済迄年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告の被告杏林薬品株式会社に対する請求及び被告久野喜八郎、同室地克博に対するその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の各二一分の一を被告久野喜八郎、同室地克博の各負担、被告久野喜八郎、同室地克博に生じた各費用の各七分の六を原告の負担、被告杏林薬品株式会社に生じた費用は全部原告の負担、その余は各自の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

1  旧昭和五〇年(ワ)第一二号事件(以下「甲事件」という)

(一) 被告久野喜八郎(以下「被告久野」という)は原告に対し、金一一七〇万円及び内金四七〇万円に対する昭和五〇年六月二七日以降、内金六〇〇万円に対する同年七月一一日以降各完済迄年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告久野の負担とする。

(三) (一)につき仮執行宣言。

2  旧昭和五〇年(ワ)第一九号事件(以下「乙事件」という)

(一) 被告室地克博(以下「被告室地」という)、同杏林薬品株式会社(以下「被告杏林」という)両名は原告に対し、各自金七七四万円及び内金六九四万円に対する被告室地は昭和五〇年八月六日以降、同杏林は同年七月二六日以降各完済迄年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告久野、同杏林両名の連帯負担とする。

(三) (一)につき仮執行宣言。

二  被告久野、同室地

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告杏林

請求棄却申立。

第二主張

一  請求原因

(甲事件につき)

1 本件事故の発生

(一) 日時 昭和四七年七月九日午後八時二〇分頃

(二) 場所 高知県高岡郡中土佐町久礼所在大川橋南詰先国道五六号線上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(高五そ三一七七)

右車両運転者 被告久野

(四) 被告車両 普通乗用自動車(高五な五四一二)

右車両運転者 訴外林利彦

右車両同乗者 原告

(五) 態様 加害車両が被害車両に正面衝突

(六) 負傷 右下腿打撲、右腓骨、脛骨各神経麻痺、頭、腰部各打撲等

2 責任原因

(一) 被告久野は加害車両を保有し、これを自己の為に運行の用に供していたものである。

(二) よつて、同被告は自賠法三条によつて原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3 損害

(一) 逸失利益 六〇〇万円

(1) 原告は精神科医師であり、現在訴外清和病院副院長の要職にある。

(2) 原告は、本件事故によつて前記の通り負傷し、その後治療を受けてきたが、昭和四八年六月四日症状固定と判断され、頭重感、眩暈、右下膝知覚鈍麻、足関節運動障害、右拇趾運動麻痺跛行の障害が残つた。

(3) 右の如き後遺症状によつて、原告はその労働能力を減退させられているところ、その喪失率は五分を下らず、右症状固定時から二〇年間(原告は、大正一五年二月一一日生であり、医師という職業柄この程度の稼働期間は当然である)はこれが持続する。

(4) そこで、中間利息年五分をホフマン方式によつて控除して現価額を求めると、原告の年収は九六〇万円を下らないものであるから労働能力喪失による逸失利益は少なくとも六〇〇万円となる。

(二) 後遺障害慰藉料 四五〇万円

(三) 弁護士費用 一二〇万円

4 よつて、原告は被告久野に対し、前記損害計一一七〇万円といずれも本件事故後である内四七〇万円に対しては昭和五〇年六月二七日(訴状送達の翌日)以降、内六〇〇万円に対しては同年七月一一日(訴変更申立書送達の翌日)以降各完済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

(乙事件につき)

1 本件事故の発生

(一) 日時 昭和四八年四月二三日午前一時三〇分頃

(二) 場所 高知県須崎市吾井郷甲八五三番地先国道五六号線上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(高五五そ七四五九)

右車両運転者 被告室地

(四) 被害者 原告(加害車両同乗者)

(五) 態様 加害車両が進路外に逸走、山際に衝突

(六) 負傷 脳震盪、脚骨々折、肺損傷、歯牙欠損等

2 責任原因

(一) 被告室地

(1) 同被告は加害者両の保有者であり、本件事故当時自己の為に運行の用に供していたものである。

(2) 従つて、自賠法三条によつて原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告杏林

(1) 被告室地は被告杏林の営業担当社員であり、医師である原告を営業行為の一環である言わゆる得意先接待として釣りに招待した帰路、本件事故を惹起している。

(2) 本件事故は、被告室地の前方不注視、把手操作不確実という一方的過失によつて惹起されたものである。

(3) 従つて、被告杏林は同室地の使用者として、民法七一五条によつて原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

3 損害

(一) 入院付添費 四万円(昭和四八年四月二四日から同年六月六日迄四四日間訴外高橋診療所に入院、内二〇日間は付添看護が不可欠、一日当り二〇〇〇円)

(二) 歯牙治療費 三〇万円(歯牙欠損等による歯列不整、咀嚼障害回復の為の治療費として少なくとも三〇万円は必要)

(三) 休業損害 一〇万円(前記入院によつて勤務先の訴外渡川病院を欠勤、一〇万円減額)

(四) 逸失利益 三五〇万円

(1) 原告は精神科医師であり、現在訴外清和病院副院長の要職にある。

(2) 原告は、本件事故によつて前記の通り負傷し、その後治療を受けてきて、現在では一応症状固定の状態にあるが、焦燥不安感、頭重、不眠症等の為に常時精神薬を服用しなければならず、自動車恐怖症、易疲労感、自律神経失調が持続、残存している。

(3) 右の如き症状によつて、原告はその労働能力を減退させられているところ、その喪失率は三分を下らず、しかもこの症状は今後共二〇年間は持続するものである。

(4) そこで、中間利息年五分をホフマン方式によつて控除して現価額を求めると、原告の平均年収は九六〇万円を下ることはないから、労働能力喪失による逸先利益は少なくとも三八〇万円となる。

(五) 後遺障害慰藉料 三〇〇万円

(六) 弁護士費用 八〇万円

4 よつて、原告は被告両名に対し、各自右損害合計七七四万円と弁護士費用を除くその余の額につき本件不法行為後である被告室地は昭和五〇年八月六日、被告杏林は同年七月二六日(いずれも訴状送達の翌日)以降完済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

二  請求原因に対する答弁

(甲事件につき)

1 請求原因第一項中(六)を除き、その余は認める。同(六)は知らない。

2 同第二項中(一)は認め、(二)は争う。

3 同第三、第四項は争う。

(乙事件につき)

1 被告室地

(一) 請求原因第一項中(六)を除き、その余は認める。同(六)は争う。

(二) 同第二項(一)中(1)は認め、(2)は争う。

(三) 同第三項は争う。原告は本件事故以前にも交通事故等に遭遇し、現に本件事故当時も治療中であつたものであり、原告主張の受傷の部位、程度と本件事故との間には因果関係はない。

(四) 同第四項は争う。

2 被告杏林

(一) 請求原因第一項は知らない。

(二) 同第二項(二)中(1)については被告室地が被告杏林の社員であること、原告が医師であることは認め、その余は否認する。同(2)は争う。本件事故は、被告室地と原告との間の私的付合いの間に発生したものであつて、被告杏林の業務とは無関係である。

(三) 同第三項は知らない。

(四) 同第四項は争う。

三  抗弁

(甲事件につき)

1 損害の一部填補 四〇万二二七〇円

2 過失相殺

(一) 被害車両は原告が保有していたものであり、本件事故当時も途中で原告から訴外林に運転を交替したものであるところ、右訴外人は車間距離不十分のうえ高速運転をした結果本件事故に遭遇しており、同訴外人にも本件事故発生について過失があると言わざるを得ない。

(二) 従つて、訴外林の過失は原告側の過失として本件事故にに基づく損害額算定に際しては十分に斟酌されなければならない。

(乙事件につき―被告室地関係)

1 示談成立

原告と被告室地との間では、昭和四八年一二月中旬頃、本件事故によつて被つた原告の損害について、原告は自賠責保険に請求し、その結果支給される保険金の限度で満足し、被告室地に対しては請求をしない旨の合意が成立している。

2 過失相殺

本件事故は、被告室地の居眠り運転の結果発生したものであるが、原告は終始同被告と行動を共にし、長時間の釣及び運転による疲労、運転開始前の飲酒等同被告において運転を継続するに不適切な身体的状況を十分に認識していたにも拘らず、これを制止することなく、漫然と運転を継続させたものであり、この点に原告にも落度があるから損害額の算定にあたつては原告の過失として斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する答弁

(乙事件につき)

抗弁事実は全て否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  甲事件請求原因第一項(本件事故の発生)は(六)(負傷の内容)を除き当事者間に争いがない。同(六)は甲第五、第六号証(成立についてはいずれも当事者間に争いがない。)によつて、これを認めることができ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

同第二項(責任原因)中(一)(加害車両の保有)は当事者間に争いがないから、加害車両の保有者として被告久野は原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。

二  乙事件請求原因第一項(本件事故の発生)は、先ず被告室地との間においては(六)を除いて、当事者間に争いがなく、(六)は甲第一七、第一八号証(成立についてはいずれも当事者間に争いがない。)、同第二七号証(証人高橋正六の証言によつて真正に成立したものと認める。)及び同証言によつて認めることができ、被告杏林との間においては、同第一五ないし第一八号証(成立についてはいずれも当事者間に争いがない。)、前掲同第二七号証、高橋証言によつて認めることができ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

同第二項(責任原因)中(一)(1)(加害車両の保有)は当事者間に争いがないから、被告室地は加害車両の保有者として本件事故によつて被つた原告の損害を賠償すべき義務がある。

被告杏林の責任原因について検討するに、先ず被告室地が被告杏林の社員であること、原告が医師であることは当事者間に争いがない。原告、被告室地各本人尋問の結果によれば、(イ) 本件事故当時原告の勤務していた訴外医療法人精華園に、被告室地は被告杏林の営業社員として薬品購入方勧誘の為に訪れていたこと、(ロ) 被告室地は、原告より釣に誘われるままに今後共同人と釣等を通じて接触を保つておくことが、営業上も得策と考えて、原告と云わゆる釣仲間となつたこと、(ハ) 本件事故の発端となつた釣は、被告室地の外、同被告と同様薬品購入方の勧誘をしていた訴外吉富製薬の社員も同行したこと、(ニ) 被告室地は、原告と釣に同行した時等に被告杏林の負担で支出したことがあること、(ホ) 本件事故による原告の負傷後被告室地の上司も見舞いに訪れたこと、以上の事実が認められる。

しかしながら、原告に有利な事実として認められるのは右の程度であり、かえつて、(ヘ) 被告室地は一介の営業社員であつて特別の接待権限が被告杏林より認められていたものではないこと、(ト) 前示接待の支出費用も社交的儀礼の範囲を出ない茶菓子代等(その最高額も数千円を越えない。)にすぎないこと、(チ) 本件加害車両も被告室地個人の所有車両であり、当該車両は日常の営業活動には使用していなかつたこと、(リ) 本件の釣も休日を利用してなされていることが前掲被告室地供述によつて認められ、また、前掲原告供述によるも「接待の費用を負担していたと思う」と述べるに留まり、それ以上に被告杏林による接待行為を裏付けるに足る供述はない。

そうすると、前示程度の事実によつてはいまだ被告杏林の責任を認めるには足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。被告杏林に対する原告の請求は、その余について判断する迄もなく、この点において排斥を免れない。

三  乙事件においては、原告と被告室地間において示談が成立していた旨の同被告の主張は、前掲被告室地供述自身明確に否認するところであつて、これを認めるに足る証拠はない。

四  そこで、原告の損害について検討するに、最大の問題は、原告の主張する症状が、甲、乙両事件の事故と相当因果関係ありと認められるや否や、これが肯認されたとして、両事件による損害への寄与の割合如何ということとなる。以下順次検討することとする。

1  先ず、甲事件であるが、甲第一二ないし第一四号証(被告久野との関係においては成立について当事者間に争いがなく、被告室地との関係においては証人松田義朗の証言によつて真正に成立したものと認めることができる。)、同第八ないし第一一号証(但し、同第一〇号証については「機能全廃」との加筆部分を除く。被告久野との関係においては成立について当事者間に争いがなく、被告室地との関係においては、証人平野恭雄の証言によつて真正に成立したものと認めることができる。)、前掲松田、平野各証言、原告供述を併せると、略、原告主張の通り、本件事故(甲事件)による負傷によつて、(イ) 右腓骨神経麻痺に起因する右拇趾運動麻痺、これによる跛行及び、(ロ) 頭重、眩暈感の後遺症状が残存し、同症状は遅くとも乙事件発生の昭和四八年四月頃には固定していたものと推認される。

成程、前掲甲第一二ないし第一四号証、松田証言には頭重、眩暈感は顕われていないが、本件事故(甲事件)後一か月余りして治療を受けた平野医師には既に右症状を訴えており(前掲甲第九号証、平野証言)、また原告の当初の負傷内容が頸椎捻挫とされている点(前掲甲第六号証によつて認められる。)からも、これを肯認できるであろう。そして、松田医師(愛宕病院)の下では腓骨神経麻痺の、平野医師の下では頭重感等の神経症状の治療が主体であつたことが前掲各証拠によつて推認されることからも、裏付けられるであろう。前掲平野証言における加令的要因も全く無視することはできないとしても、これをもつて右認定を覆すに足るものとは到底考えられない。

2  次に、乙事件であるが、甲第二三ないし第二七号証(被告久野の関係においては成立について当事者間に争いがなく、被告室地との関係においては前掲高橋証言によつて真正に成立したものと認めることができる。)、前掲高橋証言、原告供述を併せると、略、原告主張の通り、本件事故(乙事件)による負傷によつて、(イ) 右肩関節運動制限(前方、側方各挙上制限)、及び、(ロ) 頭重、焦躁不安感、不眠症の後遺症状が残存し、同症状は遅くとも昭和四八年七月三〇日頃には固定していたものと推認される。

前示後遺症状中頭重等の云わゆる神経症状については、前記甲事件における症状との継続性は否定できないにしても、前掲各証拠によつて認められる本件事故(乙事件)による原告の負傷の部位、程度等に照らせば、甲事件における前記症状が素因として存在していたにしろ、その症状を加重、悪化させたものと推認され、右素因は損害額算定に除して各寄与の割合として考慮すれば足りるものであつて、本件事故(乙事件)との相当因果関係を否定するものではない。

また、前掲甲第二三ないし第二七号証についても、その作成過程は前掲高橋証言からも明らかな如く、通常の経過とは異なるものであるが、その内容自体は略、前掲甲第一〇、第一一号証とも合致しており、前掲高橋証言の全体的趣旨とも併せ考えれば、これの証明力は十分に肯認しうる。

3  原告は、乙事件につき更に後遺症状として「咀嚼機能障害」を主張し、前掲原告供述を援用するが、証人中村錚一郎の証言に照らすと、前示歯牙に関する障害は本件事故(乙事件)とは関係がなく、素因である歯槽膿漏に起因するものではないかとの疑いが大であり、前掲原告供述はたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠もない。

4  そうして、甲、乙両事件を通じて検討した前掲各証言、供述、書証を総合すると、原告は両事件の競合によつて、本件口頭弁論終結時においても、なお後遺症状として、(イ) 右腓骨神経麻痺、右拇趾運動制限、跛行、(ロ) 右肩関節運動制限、(ハ) 頭重、眩暈、焦躁不安、不眠が残存し、今後も、少なくとも稼働可能な期間である二〇年間は、これが持続するであろうこと、そして右後遺症状は、前示認定の甲事件及び乙事件の各後遺症状が相互に因となり果となつており、その軽重、割合は把捉し難いことが認められ、右後遺症状によつて医師である原告においても少なからざる労働能力の喪失が生じていることは、前掲原告供述に照らしても優にこれを肯認することができ、またその喪失割合は前記症状に照らして少なくとも五分を下らないものと推認される。従つて、被告久野、同室地両名は損害の公平負担の見地からも、寄与率は各五割として、それぞれ二分五厘の割合において右後遺症状に基づく逸失利益を負担すべきこととなる。

五  右結果を踏まえて、損害を算定することとする。

1  甲事件につき

(一)  逸失利益 一四九万五四六四円

(1) 原告の収入状況については、医師という身分、乙第一二号証(成立について当事者間に争いがない)に照らすと、年平均四八〇万円を下らない収入を得ていたものと推認してよいであろう(現勤務先における収入は月給のみでも一二〇万円を下らない旨の前掲原告供述も、医師と云う職業に照らせば、それなりの根拠もあるといえないでもないが、原告代理人においてこれを客観的に証明する証拠を提出することは極めて容易であるにも拘らず、これの立証をせず、他方被告においては有効な反証が困難な状況に照らせば、客観的資料である前掲乙第一二号証に準拠するのが公平であろう)。

(2) 中間利息年五分をライプニツツ係数によつて控除して現価額を求めると、別紙計算書(一)の通り一四九万五四六四円となる。

(二)  後遺障害慰藉料 四五万円(前記後遺症状等に照らすと上記金額をもつてその精神的苦痛を慰藉するのが相当と思慮する。)

(三)  被告久野は、過失相殺を主張するが、本件加害車両の保有者が原告である(この点については、原告において明らかに争わないから自白したものと認める)からと言つて、現に運転行為に従事せず、かつ右運転行為をも実質的に支配していない、単なる同乗者にすぎない原告に対し、仮に訴外林和彦に過失があつたとしても、これを原告博の過失として、その損害算定に際し斟酌するのは当を得ない。右主張は排斥を免れない。

(四)  更に、被告久野の一部填補の主張であるが、同被告主張の弁済額については原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされるところ、同被告においても右弁済の充当関係についての具体的な主張、立証はなく、乙第一ないし第一〇号証(但し、同第八号証は一、二。成立については、いずれも当事者間に争いがない。)及び弁論の全趣旨に照らすと、原告が既に弁済を受けたとして訴求しない治療関係費、休業損害、傷害慰藉料の全額と解する余地が十分にあるので、これを控除しないこととする。

(五)  弁護士費用 二〇万円(原告が本件訴訟の提起、遂行を代理人に委任したことは記録上明らかであるところ、本件事故((甲事件))と相当因果関係ある損害として被告久野に請求しうる弁護士費用は、前示認定額等に照らして二〇万円が相当である。)

2  乙事件につき

(一)  歯牙治療費 五万四〇〇〇円

(1) 本件事故(乙事件)によつて、原告は歯牙二本を欠損し、これの治療(補綴)の為に五万四〇〇〇円を支出したことは、前掲中村証言、同証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二〇ないし第二二号証、前掲原告供述によつて認めることができる。

(2) 原告が右治療に際し、保険外負担となる、云わゆる一八金の義歯を希望したことについても、前掲中村証言、原告の医師としての地位、保険内価額との差等に照らせば、相当として認容できる。

(3) 右金員以外については、前示の通り本件事故との相当因果関係が認められず、排斥を免れない。

(二)  休業損害 一〇万円

(1) 証人和気正人の証言、前掲甲第二〇号証、同第二六号証、原告供述によれば、原告は昭和四八年七月以降約一年間訴外渡川病院(高知県中村市所在)に勤務したが、その当初の七月は訴外第二高橋診療所及び中村歯科診療所へ通院、加療を受け、その間少なくとも五日間は休業をやむなくされたことが認められる。

(2) そうして、前掲原告供述に照らせば、右休業期間に見合う減給として一〇万円を下らない損害を被つたことが推認される。

(三)  入院付添費 二万円(前掲甲第二三号証によつて、一〇日間は付添を要する状況にあつたことが認められる。職業的付添人か近親者かについての具体的主張、立証はないから、近親者付添として認めることとする。同付添による費用は一日当り二〇〇〇円を下らないものと推認される。)

(四)  逸失利益 一四九万五四六四円(前記甲事件(1(一))の通り)

(五)  後遺障害慰藉料 四五万円(前記甲事件(1(二))の通り)

(六)  被告室地は過失相殺を主張するが、原告において同被告の飲酒運転ないし過労運転を慫慂し、或いはこれを認容していたことをうかがわしめるに足る証拠はなく、前掲原告、被告室地各供述から認められる同乗の形態に照らせば、運行目的が原告に主であつたものとも断じ難く、結局右同乗をもつて過失相殺の対象としなければ両者間の公平を害するものとは認め難い。右主張は排斥を免れない。

(七)  弁護士費用 二二万円(原告が本件訴訟の提起、遂行を代理人に委任したことは記録上明らかであるところ、本件事故(乙事件)と相当因果関係ある損害として被告室地に対して請求しうる弁護士費用は前示認容額等に照らして二二万円が相当である。)

六  以上の次第で、原告の本訴請求は主文の限度(別紙計算書(二)の通り)で理由があり、その余は失当として棄却を免れない。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 澤田英雄)

(別紙) 計算書

(一)

年収 480万円 喪失率 0.025 ライプ係数 12.4622

(算式)

4,800,000×0.025×12.4622=1,495,464

(二)

1 被告久野

(1) 逸失利益 149万5,464円

(2) 後遺障害慰藉料 45万円

(3) 弁護士費用 20万円

(4) 合計 ((1)+(2)+(3)) 214万5,464円

2 被告室地

(1) 歯牙治療費 5万4,000円

(2) 休業損害 10万円

(3) 入院付添費 2万円

(4) 逸失利益 149万5,464円

(5) 後遺障害慰藉料 45万円

(6) 弁護士費用 22万円

(7) 合計 ((1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6)) 233万9,464円

3 遅延損害金

(1) 被告久野

(イ) 45万円につき本件事故後である昭和50年6月27日以降(同日が訴状送達の翌日であることは一件記録上明らかである)

(ロ) 149万5,464円につき本件事故後である昭和50年7月11日以降(同日が訴変更申立書送達の翌日であることは一件記録上明らかである)

各完済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金。

(2) 被告室地

弁護士費用を除く211万9,464円につき本件事故後である昭和50年8月6日以降(同日が訴状送達の翌日であることは一件記録上明らかである)完済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金。

(以上)

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